引退後だからこそわかる。新しいフィールドで活躍する元サッカー日本代表石川氏が、現役時代から意識していたことについてを振り返る。
——2017年に現役を引退してから数年の月日が経ちました。改めてご自身の現役生活をどのように振り返っていますか?
引退して4年目になりますが、結構前な感じがしますね(笑)。言葉にすれば、「やり切った」という一言です。出し切ったなと。辞めてからの1,2年は、もっとやりたいという思いはありました。ただ、もともと膝が悪いのはわかっていましたし、自分ができないこともわかっていました。ある意味、そういうものがなければもっとやりたいという思いもあったでしょうけど、体も心も納得して引退できたなと思っています。
また、プロになる前から現役生活を終えるまで、全てが繋がっていたなという印象があります。プロになるまでに自分が積み重ねてきたものがあって、それがプロの世界でも生きて、今の仕事にも繋がっている。よくセカンドキャリアと言いますけど、確かに職種は違うかもしれませんが、僕の中では常にキャリアは繋がり続けていると感じています。
——「繋がり続けている」という考えは、現役時代から持っていたものなのでしょうか?
自分の中で一つ大きかったのは、プロになる前のところです。キャリアを歩んでいく中で、うまくいかないことは多々ありました。それをどう解決していくか、乗り越えてその先につなげるかという作業ばかりをしてきました。それがあったからこそプロ選手になれた感覚があって、プロになってからもそういった取り組み自体を変えることはありませんでした。例えば、試合に出られなかったり、怪我をしたりした時も、どう乗り越えていくかを考える。自分がやってきたことを正当化するためにも、そういうことを継続してやってきたことが今に繋がっていると思います。
——現役時代にネクストキャリアに向けて考えていたことはありますか?
今、アクションを起こしている選手たちは、本当に素晴らしいなと思っているんですけど、僕は正直なところ具体的なものは何もしていませんでした。ただ、いろいろなコミュニティに入っていくことは意識していたと思います。例えば、趣味のサーフィンなどを通していろいろな人と出会うこともそうです。そこでいろいろなインスピレーションを受けたり、いい時間になる機会が多くて、それをサッカーにつなげる。その繰り返しでしたね。実際、引退した後、そういったコミュニティに飛び込む意識は、今の仕事の中で生きています。人と人のつながりを大事にすることは自分の中で意識していましたし、それはサッカー選手でなくても大事なことだと思います。
——現在のどんな活動をしているか教えてください。
現役時代は選手としてサッカーをやってきたわけですけど、辞めてからは「見る、支える」方に回りました。FC東京ではクラブコミュニケーターとして支える側に周り、いろいろな人とコミュニケーションを取ったり、思いを持って行動、活動をしています。相互理解と言いますか、そこは自分の中で大事にしていますね。具体的には地域や社会とのつながりを作ること、サッカー×何かを生み出すことです。最近ならば農業ですね。それも自分の中で親和性があって繋がるところがありました。やはり「繋ぐ」という言葉が一番キーなのかもしれません。
——ひとつ農業という話がありました。農業はどのような流れで始まったのでしょうか?
「PLAYMAKER」さんという「アスリートにプラス1の可能性」を提供している企業の方々がいて、知り合いを通じてそこの方と出会ったのが始まりです。去年、コロナによりサッカーのある日常を失った時期がありました。その時にカテゴリーは別としていろいろな人たちとオンラインで話す機会があって、FC東京の選手だけでなく、本当に多くの選手が、これからどうなってしまうんだろう、サッカーを失って自分達にどんな価値があるんだろう、と不安を抱えているのを目の当たりにしました。そこで「PLAYMAKER」さんが農業をやっているということで、そこにオフラインで人を集めても面白いのではないかと思ったのが始まりです。
——これまでとは全く違う分野でのチャレンジだと思いますが、どんな思いで飛び込んだのでしょうか。
単純に人は食べていかなければ生きていけないということだったり、食育的な観点もあります。あとは、もともと土を触ることだったり、自然が好きでした。自然と触れ合っている時の自分はナチュラルなんです。例えば、サッカー選手はオンとオフが大事です。オンはみんな一生懸命やっていますが、オフに何をするかは結構悩んでいたりします。そういうオンとオフのメリハリを作ることが選手には非常に大事なんです。もちろん農業がオフになるかはわかりません。だけど、選手たちにとって日常から非日常に変わる瞬間をどれだけ作れるか。そういった場が作られることで、学びを得られたり、新しいコミュニティの中でコミュニケーションを図ることができたりします。そこでまたアスリートたちが自分の仕事に活かせるものが生まれるかもしれない。そこをテーマに考えて、まずは自分がやってみようと思って始めました。
Vol.2では、引退後のネクストキャリアに対して感じていた不安と、そこから前に進むために大切にしていた事について語ってもらいます。