SEARCH

INTERVIEWVol.2

石川 直宏

やり切って一回
空っぽになって
しまったんです。
でも…

RH

Interview by 林遼平

2021.11.18

新しいフィールドで活躍する元サッカー日本代表の石川氏が、引退後のネクストキャリアに対して感じていた不安と、そこから前へ進むために大切にしていたことについて語る。

石川直宏

ーーネクストキャリアへの不安を抱えている人が多くいるとよく聞きます。石川直宏さんは、その点に関してどのように捉えていますか?

 みんな不安です。キャリアがスタートした瞬間から、キャリアの終わりに向かって走り出しているような状況ですから。それがいつ途絶えるかわかりません。それに正直、次のキャリアに向けて何を準備すればいいかを知ることは簡単ではありません。

 ただ、一つ言えるのは、いろいろな人と関わる機会を増やしていくことが大事ということです。あとは目的を作ること。例えば、海外に行きたいという目的があれば、その手段として英語を勉強しますよね。そういった目的を明確にすることが大事です。サッカー選手ならば、自分が何を成し遂げたいのか、どんな自分でありたいか、が見えるか見えないかで、キャリアの中でもプレーから発するエネルギーが変わってくる。それは引退してからだけではなく、現役時にも大事なことだと思います。特に不安を持っている選手たちは、自分がどうありたいかを考えた中で、自分がやらなければならない手段が生まれてくると思っています。その中で、僕がそういう人たちに気づける機会を提供したいと考えています。

ーー目的の選択肢を提供するということですね。

 その選択肢は偏っているかもしれません。ただ、自分がいいなと思っているものに対しては発信をしていきたい。それに「これいいな、よくないな」というのがあまり自分の中になくて、どう良くしていくかだけを考えています。やはり物事の変換をすることが大事です。例えば、サッカーならばシステムや戦い方の変化に対応して自分の新たな武器につなげたり、欠点をうまく周りと共有しながら助けあったりしますよね。サッカーでは自然にやっていることなので、そういった対応力や変換能力に関しては、サッカー選手は長けていると思っています。だから、その機会を増やしてあげれば、簡単に転換できるのではないかなと。そういうことを一緒にシェアし合いながら、成長したいなという思いがあります

石川直宏

ーー現役時代にブログ等のSNSで発信していましたが、そういう考えは引退後、今に生きているところはありますか?

 もともと自分の思いを伝えたい、発信したいと思っていました。別にそれで認めてもらいたいわけではなく、自分の頭の中を整理できる時間でもありました。なおかつ、そういう思いを共有できると、選手としてはサポーターと自分の生き様やストーリーを重ねてもらえる機会になると言いますか、サッカーを見てすごいと思うだけでなく、こういうことがあったから今につながっているよという姿がお互いに共有できると思い入れも変わってきます。そういうことを今の選手はたくさんできる機会があるのではないかなと。感情を曝け出すことだったり、SNSや声に出して発信し続けることは大事だと思います。

ーーちなみに現役時代と引退後のギャップはかなりあったんでしょうか。

 すごくありました。誰もが言いますが、サッカーは選手としてプレーできるのが素晴らしいことです。でも、自分は自分で今の人生を楽しんでいます。サッカー選手から変化はありましたけど、取り組みやチャレンジしていることは、それがサッカーではなくなっただけであって自分の中ではそんなに変わっていません。

 ただ、タイプは変わったかもしれません。どちらかと言えば、現役時は右サイドをガーっと攻め上がっていくタイプでしたけど、今はアクションを起こすことも含めてバランスを取ったり、周りを見れるようにはなったかなと思います(笑)。

石川直宏

ーー現役時代に思っていたこと、やっていたことで今に生きていることはありますか?

 具体的にはそんなにないですね。でも、一つ言えるのは「やり切る」ということです。何を持って「やり切る」と言うかはすごく難しいんですけど、やり切る、出し切る。現役の時に自分の中で出し切ったと言いましたけど、とにかく全力でチャレンジしてみる。そこだけですかね。一つのことに向き合って、やり切ることがすごく大切だと思っています。例えば、講演させてもらう時もそうです。しっかり準備した中で、全力で思いを持って喋らせてもらう。僕はその時に伝えられることを全力で伝える。そういうところが大事ですかね。具体的にこういう勉強をしているというのはないですけど、いろいろな現場から学ばせてもらっている感じです。

ーーやり切ることの大事さを深く考えるきっかけはあったのでしょうか。

 やはり現役の時の怪我ですね。いつも、うまくいかない中で何ができるかを考えていました。例えば、走れないけど、グラウンドに出れないけど、できることはあるよねと。一つひとつのメニューもそうだし、コミュニケーションを取ることもそう。そこで今日やり切ったと自分の中で思って次に進みたかった。「走れないから今日はダメ」ではなく、今できることをやり切った上で次の日に成長している自分がいる。講演させてもらった時も全力を出すこと。そして全力を出すと自分の中でインプットしたいものが出てくる。引退した後、やり切って一回空っぽになってしまったんです。でも、空っぽになって次のキャリアどうしようと思った時に初めてやりたいことが浮かんできました。だから、吐き出すというか、やり切る、出し切ることはすごく大事だと思っています。

Vol.3では、ネクストキャリアをテーマに現役選手へ「伝えたいこと」について語ってもらいます。